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サバンナの話。

 Savanna(サバンナ)。
 別れる時、はじめて気づいた名前。
 アフリカではない。お笑い芸人でもない。カーペットのことである。
 寝室にのっぺり横たわる彼ともそろそろお別れだな…と感じていたのは、冬も始まったばかりの頃だろうか。
 手放したい理由は、小さく積もっていった。
 猫毛とホコリを何十年分も抱え込んだ体。
 掃除機の吸引力では取りきれないそれらに加え、鉄道模型の草を表現するためのパウダーみたいな、謎の緑の粉が出てくる。端の方がハゲている。等々。

「これ、捨ててもいいかなぁ」
旦那に声をかけたら、
「車出すよ」
と神の一言を賜ったので、善は急げ!と手続きを始めた。

 粗大ゴミを出すためには、事前申請が必要だ。
 電話またはインターネット申請が選べるが、早く処理したかったので電話を選択。
「カーペット1本、500円ですね」
 オペレーターのおじ様が、親切に手数料シールの金額を教えてくれる。あとはコンビニで指定金額のシールを購入して、貼り付ければ準備完了。車に彼を詰め込んで、最後のドライブに出発だ。

(ああそういえば、前回持ち込んだ粗大ゴミは美樹さやかの剣(申請名:園芸用の支柱)だっけ…)

 そんな生ぬるい思い出に包まれつつ、懐かしのストックヤードに車で乗り入れると、前方でバターン!と倉庫の扉が開かれた。
 車のエンジン音に即座に反応したのだろう、
満面の笑みを浮かべてこっちこっち!と手を振る、5〜6人の快活なおじさま達。え、なに?!ごめん、そんなにモノないよ?!

おじ様A「何区ですかー?お名前はー?」
「△△区の小坂です」
おじ様B「登録ありましたー!カーペット1本でーす!」
おじ様C「資源物もありまーす!」
おじ様D「どっちからだそうかね?」
「あ…じゃあついでに持ってきた段ボール、ボックスに入れてきます…」
おじ様A「はーい!入って右ねー!」

 はきはきと動いてくださるおじ様達に作業を委ね、私はひとまず段ボールを指定位置に納めに行く。
 戻ってきたら、サバンナは完全に姿を消していた。

「あれ?ヒロ、サバンナは?」
「あっちで、ものの10秒で粉砕されてたよ」
「!??!」

 なんということだ。瞬殺とは。別れを告げる暇すらなかった。こんなはずでは…と思う反面、冷静な納得もあった。モノの価値は、人により異なる。私にとっては長年連れ添ってきたカーペットでも、おじ様達にとっては、速やかに処理すべき粗大ゴミでしかないのだ。
 全手続きを5分で終了し、すんなり帰宅。何もない床を、あらためて眺めてみる。真新しいフローリングが、なぜか寒々しい。
 柄がモンハンの壁紙みたいで、テンションをいつも上げてくれたサバンナ。辛い電話がかかってきた時に、彼の柄を指でふにふにと押したら、何故か落ち着いた。影でずっと、支えらていた事を思い知る。一瞬、私は間違っただろうかと不安になる。
 けれど、私は知っている。不安は自由の眩暈である事を。

 手放した事に後悔はない。モノは巡る。必要ならば、また形を変えて出会うだろう。
 ありがとうサバンナ。また会う日まで。

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